赤い蝋燭と金魚
宝野アリカ
諸肌を脱いだ
肩に蝋を垂らす
あなたの眼とても
真剣過ぎて怖い
むかし人間に
裏切られた人魚
蝋燭を赤く
塗りつぶして海へと
消えて行ったのよ
可哀相
ゆらぐ炎が
映し出すものは何
もしあなた 居なくなれば
わたしには 帰る場処が
なくなって この世はきっと
空(から)の水槽
溶けそうに熱い
声をあげるたびに
口をあけ泳ぐ
わたし斑の金魚
もうすぐ朱(あか)く変わるでしょう
ガラス越しでも構わないの
触れていて
まだあなた 離さないで
このからだ 息を返す
何度でも 浮き上がってゆく
灯るのは 鱗の肌
燃えるのは 緋色の鰭
ねえあなた 居なくなれば
わたしには 生きる場処が
なくなって この世の底で
赤い水葬