小池
「この歳になると 嫌でも 現実って奴が見えてきます
十代の頃は 恋の理想も高くて
あれも嫌 これも嫌って 彼氏を減点式で見ていたんですが
二十歳を過ぎて 覚えました
"妥協"って言葉を
私もあの辺で手を打っときゃよかったかな」
激しい夏が過ぎて 2度目の恋が終わり
焼けた肌が褪せる頃は偶然の季節
コンビニのレジに並ぶ 見覚えのある横顔
目が合った時 がりがりくん 手にしてた
卒業式ぶりの小池は
シャレたシャツを着ちゃって
とんがった髪型も
ちょっといけてるかもね
どうかしてる!
昔の彼氏に心が動いた
逃した魚大きく見えるなんて
どうかしてる!
近頃 私は弱っているんだ
何だか淋しくて思い出にまで手を出す
「『お前のことを永遠に愛してる』なんていってた小池が
彼女を連れてたことが ショックでした
もう着ないと思って 友達にあげた洋服を
その友達が着てるのを見て 急に悔しくなったような気分でした
自分には似合わないのに」
先に声掛けちゃった 私はそう負け組
なつかしさに甘えたくて 近寄って行った
ぎこちないリアクション 気づけばよかったね
その隣には かわいらしい女の子
私が振ったはずの小池に
「1人?」なんて聞かれて
「まさか!」って外 見ながら
誰かが待つふりして
ついてないわ!
世間の男は 見る目がないのね
秋から冬の私は脂が乗る
ついてないわ!
疲れたハートは夏バテしてるの
つぶやく独り言 こんなはずではなかった
「小池だけは キープしていたつもりだったんです
恋の滑り止めっていうか 最後の最後
どうしようもなくなったら 小池でもいいかなって」
小池なんて忘れていたのに
おいしく見える 恋もお腹減ると
間食みたいにつまみたくなるの
どうかしてる!
昔の彼氏に心が動いた
逃した魚大きく見えるなんて
どうかしてる!
近頃 私は弱っているんだ
何だか淋しくて思い出にまで手を出す
「小池! 冗談じゃないよ
何で 私があんたに嫉妬しなきゃいけないのよ?
小池! 彼女ができたなんて聞いてないよ
小池! こんな所で彼女とうろうろしてんじゃねえよ!
はい はい 私は一人です
こんな時間に一人で がりがりくんを買っていました
小池!何とか言え!
やさしい言葉の ひとつも掛けやがれ!」