番場の忠太郎
Yurio Matsui, Hideo Mizumori
筑波颪も 荒川土手を
跨ぎゃほぐれる 三度笠
顔も知らねえ 瞼の母に
もしも遭えたら 話しのつぎ穂
なんとつけよか なんとつけよか 忠太郎
おかみさん どうしても倅とは
忠太郎とは呼んじゃくれねえんでござんすね
母恋しさに流れ流れて幾年月
あんまりじゃござんせんか!
渡世仁義の 切り口上は
恥の上塗り さらすだけ
せめてたよりは 親子の絆
どんなお人か ご無事でいてか
思うだけでも 思うだけでも 泣けてくる
こうして 両の瞼を合わせりゃ
優し笑顔がうかんでくらあ
もう二度とお目にゃかかりませんが
いつまでも達者でいておくんなせえよ
御免なすって
おっ母さん
二束三文 草鞋の紐も
いちどこじれりゃ 捨てるだけ
花のこぼれ灯 水熊横丁
雪の引き幕 芝居ははねた
どこへ流れる どこへ流れる 忠太郎