靴
紗希
日が暮れるのが早くなって
ヘッドライトが街を泳いで
何度も照らされる思い出が
ふっと 夕闇の上 浮かんでいく
片っぽの小さな靴
落ちている高架下
くぐり抜けていく帰り道
秋が深さを増すほどに
一人 懐かしさに 溺れていく
乾ききらないシャツにばかり
仕方なく袖を通す日々
悲しいほど 熟れ過ぎた
後悔の実に汚されてる
手を離した日に見送った
飛行機雲のように
美しいまま 薄れてくれるなら
どんなに楽に夜を跨げるだろう
一人きり 迷い道
二人きりに戻りたい
特別かっこいい 靴じゃなくていい
肩の力が戻りさえすれば
また、ほんの少しの望みを抱えて
朝を迎えられる
感傷的な景色、だけが罪
明日の風に身を漂わせても
一番会いたいと願う人は
違う空の下。
もう二度と
同じ匂いには触れられない
どこで暮らしているかも
知っているし
道ばたですれ違うことも
きっとあるでしょう
だけどただ一つ 足りないもの
それは、おそろいの気持ち
一人きり 悪くない
二人きりを忘れない
中途半端は脱ぎ捨てて
裸足で歩こう
もう片一方の靴 見つけてあげてよ
どこかで泣いているあの子に
夕日はもうすっかり落ちて
星がうっすらと瞬いて
思い出を静かに眠らすように
「おやすみなさい」と囁いた